株式会社AMMC|BPR・管理部門再構築シリーズ Vol.4
「経理担当者が退職することになった。引継ぎ期間は1か月しかない」
このような状況になって、初めて自社の経理業務が一人の担当者に大きく依存していたことに気づく会社は少なくありません。
請求書の処理方法、月次決算の手順、取引先ごとの例外対応、会計処理の判断基準、銀行や税理士とのやり取り。担当者本人にとっては日常業務でも、周囲から見ると「何を、いつ、どう処理しているのか分からない」という状態になっていることがあります。
退職が決まってから慌ててマニュアルを作り、後任者へ引き継ぐ。しかし、短期間ですべてを伝えることは難しく、退職後に「聞いていない」「分からない」が続く――。
本当に必要なのは、引継ぎを上手に行うことだけではありません。そもそも、特定の人から特定の人への引継ぎに依存しなくても業務が回る仕組みをつくることです。
今回はBPR・管理部門再構築シリーズVol.4として、経理担当者の退職をきっかけに業務が止まらないための経理体制について解説します。
「退職者から後任者へ引き継ぐ」だけでは解決しない
経理担当者が退職するとき、多くの会社では「後任者を採用して、退職者から引き継げばよい」と考えます。もちろん、引継ぎそのものは必要です。
しかし、従来の業務をそのまま次の担当者へ移すだけでは、属人化の相手が変わるだけになる可能性があります。
Aさんしか分からなかった仕事をBさんへ引き継ぎ、数年後には「Bさんしか分からない仕事」になる。これでは組織としての問題は何も解決していません。
退職を機に確認すべきなのは、「誰に引き継ぐか」だけではなく、「そもそもこの業務は必要か」「このやり方でよいか」「誰でも一定水準で処理できるか」です。
引継ぎを、人から人への知識移転だけで終わらせず、業務そのものを見直す機会に変えることが重要です。
経理担当者の退職で業務が止まる会社に共通する4つの状態
1.業務の全体像を担当者本人しか把握していない
最も典型的なのが、経理業務の一覧そのものが存在しないケースです。
日次、週次、月次、年次で何をしているのか。どの取引先にどのような対応が必要なのか。どのExcelを使い、どのシステムへ入力し、誰へ報告しているのか。
担当者本人は長年の経験で覚えていても、会社として整理されていなければ、退職が決まった瞬間に大量の業務を短期間で洗い出すことになります。
まず必要なのはマニュアルを書くことよりも、業務を棚卸しして全体像を見えるようにすることです。
2.判断基準が担当者の経験の中にある
経理の属人化で特に危険なのは、作業方法よりも「判断」が個人に依存している状態です。
「この請求書はどの勘定科目にするか」「この支払いは誰の承認が必要か」「この取引はいつ売上計上するか」「例外が発生したとき誰へ確認するか」といった判断が、担当者の経験だけで行われていることがあります。
操作手順だけをマニュアル化しても、判断基準が残っていなければ、後任者は少し違う取引が出てきた途端に処理できなくなります。
引継ぎでは「どう処理するか」だけでなく、「なぜその処理をするのか」「何を基準に判断するのか」まで組織の情報として残す必要があります。
3.例外処理が多く、標準業務が定まっていない
取引先ごと、部署ごと、担当者ごとに処理方法が違う会社では、引継ぎの難易度が一気に上がります。
「この取引先だけ紙で届く」「この部署だけ別のExcelを使う」「この支払いだけ部長へメールで確認する」といった例外が積み重なると、業務は複雑になります。
例外処理のすべてが不要とは限りません。しかし、過去の事情で始まった運用が、その理由を確認されないまま残っていることもあります。
退職時には、例外をそのまま後任者へ覚えさせるのではなく、標準化できるものがないかを見直すことが重要です。
4.一人で完結する業務が多く、周囲が内容を確認できない
担当者が入力から確認、資料作成まで一人で完結していると、他の人が業務を理解する機会がありません。
これは引継ぎだけでなく、内部統制の観点からも注意が必要です。担当者が休職した場合に業務が止まるだけでなく、誤りがあっても周囲が気づきにくくなります。
すべての業務を複数人で二重に行う必要はありませんが、重要業務については、誰が実施し、誰が確認し、不在時には誰が代替するのかを決めておくことが必要です。
引継ぎ資料を作る前に、まず「業務棚卸し」をする
退職が決まると、すぐにマニュアル作成を始めたくなります。しかし、最初に行いたいのは業務棚卸しです。
現在行っている業務をすべて洗い出し、少なくとも次の項目を整理します。
- ・業務名・業務内容
- ・実施頻度(日次・週次・月次・年次・随時)
- ・担当者・確認者
- ・締切・実施時期
- ・使用するシステム、Excel、帳票
- ・前工程・後工程と関係部署
- ・判断が必要なポイント
- ・例外処理
- ・不在時の代替者
一覧化すると、「担当者しか知らなかった業務」「似たような作業の重複」「不要になっている作業」「一人に集中している重要業務」が見えるようになります。
この棚卸しをせずにマニュアルを作ると、現状の非効率な業務をそのまま文章化することになりかねません。
引継ぎに頼らない経理体制をつくる5つのステップ
STEP1.業務を「残す・変える・やめる」に分ける
棚卸しした業務を、そのまますべて引き継ぐ必要はありません。
「今後も必要なので残す」「やり方を変える」「不要なのでやめる」という視点で整理します。
例えば、同じ数字を複数のExcelへ転記している、システムで確認できる情報を別途一覧表にしている、過去の上司の要望で始めた資料を誰も見ていない、といった業務が残っていることがあります。
退職は、これまで当たり前になっていた業務を見直す良い機会でもあります。
STEP2.標準的な業務フローを決める
次に、誰が担当しても基本的に同じ流れで処理できるよう、標準業務を設計します。
資料の受領、内容確認、システム入力、承認、支払い、保存といった流れを整理し、担当者によってやり方が変わらない状態を目指します。
特に、他部署から経理へ資料が届く部分は重要です。経理だけを改善しても、請求書や経費精算が期限どおりに集まらなければ、月次決算は安定しません。
STEP3.判断基準と例外対応を言語化する
手順書には、クリックする場所や入力方法だけでなく、判断基準を残します。
勘定科目、計上時期、承認ルート、支払条件、証憑の確認方法など、担当者が日常的に判断している内容を整理します。
すべての例外を事前にマニュアル化することは困難です。そのため、「この条件に該当したら誰へ相談する」といったエスカレーションルールも決めておくと、担当者が一人で抱え込むことを防げます。
STEP4.複数人が業務を理解できる状態をつくる
マニュアルを作っただけでは、属人化は解消しません。
実際に別の人が業務を行い、問題なく処理できるかを確認する必要があります。休暇時に代替する、担当業務を定期的に入れ替える、月次決算の一部を相互に確認するなど、日常業務の中で複数人が理解する仕組みをつくります。
「担当者は一人でもよいが、担当者しか分からない状態にはしない」という考え方が重要です。
STEP5.システム・外部リソースも含めて役割を再設計する
すべての経理業務を自社社員だけで抱える必要はありません。
定型的な入力、請求書処理、経費精算、支払関連業務などは、システムによる自動化や外部リソースの活用を検討できます。一方で、経営判断に関わる数字の分析や社内ルールの設計など、自社に残した方がよい業務もあります。
重要なのは「内製か外注か」を先に決めることではなく、業務を整理したうえで、どの業務を誰が担うのが最も安定するかを設計することです。
マニュアルを作れば属人化は解消するのか
ここで注意したいのが、「マニュアルを作ったから大丈夫」と考えてしまうことです。
マニュアルは重要ですが、それだけでは引継ぎに強い組織にはなりません。
業務内容が変わっても更新されない、保存場所が分からない、実際の運用と内容が違う、判断基準が書かれていない――。こうしたマニュアルでは、いざというときに役に立ちません。
必要なのは、マニュアルを作ることではなく、マニュアルがなくても一定の業務フローとルールが共有され、必要なときに詳細を確認できる状態です。
このテーマはBPRシリーズVol.7「経理業務をマニュアル化しても属人化がなくならない理由」で、さらに詳しく取り上げる予定です。
退職が決まってからでは遅い。平時に引継ぎできる状態をつくる
退職には、十分な引継ぎ期間を確保できるとは限りません。
急な退職だけでなく、休職、育児・介護休業、異動、長期休暇などによって、担当者が突然業務から離れる可能性もあります。
だからこそ、「退職者が出たら引継ぎをする」のではなく、平時からいつでも引継ぎできる状態にしておくことが重要です。
経理業務が一覧化され、データや資料の保存場所が統一され、判断基準が共有され、代替できる人がいる。この状態であれば、担当者が変わっても会社の業務は止まりにくくなります。
引継ぎとは、退職時に行うイベントではなく、日常の業務設計の結果と考えることができます。
経理担当者の退職は、管理部門を見直すきっかけにもなる
担当者の退職は会社にとって大きな負担ですが、同時に、これまで見えなかった業務上の課題が表面化するタイミングでもあります。
後任者を急いで採用し、前任者の仕事をそのまま渡すだけでは、数年後に同じ問題が起きるかもしれません。
業務を棚卸しし、不要な作業をなくし、標準化し、役割分担を見直し、必要に応じてシステムや外部リソースを活用する。
これは単なる「引継ぎ改善」ではなく、経理部門の業務プロセスそのものを再設計するBPRの考え方です。
人が変わることを前提に、それでも業務が安定して回る仕組みをつくる。その状態が、管理部門の強さにつながります。
まとめ|目指すのは「引継ぎが上手な会社」ではなく「人が変わっても止まらない会社」
経理担当者の退職によって業務が止まる会社では、退職そのものよりも、その人に業務・情報・判断が集中していたことが本質的な問題です。
対策として重要なのは、次の5点です。
- ・経理業務を棚卸しして全体像を見える化する
- ・不要な業務や例外処理を見直す
- ・業務フローと判断基準を標準化する
- ・複数人が業務を理解し、代替できる状態をつくる
- ・システム・外部リソースも含めて役割分担を再設計する
引継ぎ資料を充実させることは大切です。しかし、本当に強い経理体制は、特定の担当者がいなくなっても業務が止まらず、必要な情報と判断基準が組織に残る体制です。
AMMCでは、経理業務の棚卸し、属人化の解消、月次決算プロセスの見直し、業務標準化、外部リソースの活用などを通じて、管理部門の構築・再構築を支援しています。
「経理担当者の退職が決まり、何から整理すればよいか分からない」「担当者しか分からない業務を減らしたい」といった課題がありましたら、お気軽にご相談ください。
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