株式会社AMMC|BPR・管理部門再構築シリーズ Vol.2

はじめに:「その人しか分からない」は、会社にとって大きなリスクです

「この処理は○○さんに聞かないと分からない」「そのExcelは担当者しか触れない」「担当者が休むと月次決算が止まってしまう」。経理の現場では、このような状態が珍しくありません。長く勤務している担当者が会社独自のルールや過去の経緯を理解し、日々の業務を支えていること自体は大きな強みです。しかし、その知識や判断が一人の頭の中だけに蓄積されていると、強みはそのまま経営上のリスクにもなります。

経理は、請求、入金、支払い、給与や経費に関するデータ連携、会計処理、月次決算、資金繰りなど、会社のお金に関わる重要な情報が集まる部門です。業務が止まれば、単に事務処理が遅れるだけではありません。経営数字が把握できない、取引先への支払いが遅れる、銀行へ必要な資料を出せないといった問題につながる可能性があります。

本記事では、経理の属人化がなぜ危険なのか、なぜ中小企業で発生しやすいのか、そして「その人しか分からない会社」から脱却するために何をすべきかを、BPR(業務プロセスの再設計)の視点から解説します。

経理の「属人化」とはどのような状態か

属人化とは、特定の業務について、手順や判断基準、必要な情報が組織として共有されず、特定の個人に依存している状態を指します。経理では、単に「担当者が決まっている」ことと「属人化している」ことを分けて考える必要があります。

担当者が明確であること自体は問題ではありません。むしろ責任の所在を明確にするために担当分けは必要です。問題なのは、担当者以外が業務の内容を把握できず、その人が不在になると業務を継続できないことです。例えば、月末に作成するExcelの計算ロジックを一人しか知らない、取引先ごとの請求方法が担当者の記憶だけで管理されている、仕訳の判断根拠が記録されていない、といった状態です。

さらに危険なのが、「何となく回っているため、会社側が属人化に気づいていない」ケースです。担当者が毎日きちんと仕事をしている間は問題が表面化しません。むしろ経営者から見ると「○○さんに任せておけば安心」と映ることがあります。しかし、退職、休職、異動、繁忙期などをきっかけに初めて、会社が一人の担当者にどれほど依存していたかが分かります。

なぜ中小企業の経理は属人化しやすいのか

中小企業で経理が属人化しやすい理由の一つは、少人数で幅広い業務を担当していることです。大企業であれば、売掛金、買掛金、固定資産、決算などを複数人で分担できても、中小企業では一人の担当者が経理全般を担っていることがあります。その結果、経験を積むほどその人に知識が集中します。

二つ目は、会社独自の例外処理が積み重なりやすいことです。「この取引先だけ請求方法が違う」「この費用だけ別のExcelで管理する」「この仕訳は昔からこの処理」といった例外が増えると、業務は複雑になります。そして、なぜその処理をしているのかという理由が記録されないまま、担当者の経験として蓄積されていきます。

三つ目は、経理業務がブラックボックスになりやすいことです。経営者や他部署から見ると、請求書を渡せば支払いが行われ、月末になれば試算表が出てくるため、その途中で何が行われているかを把握する機会がありません。業務プロセスが見えないまま担当者に任せ続けることで、属人化が進んでいきます。

四つ目は、「忙しくて整理する時間がない」という問題です。毎月の締めや支払いに追われると、マニュアル作成や業務整理は後回しになります。目の前の仕事を終わらせることが優先される結果、暫定的なExcelや個人フォルダ、口頭ルールが長期間残ってしまいます。

経理の属人化が引き起こす5つのリスク

経理の属人化は、「担当者が休むと少し困る」という程度の問題ではありません。会社経営に直接影響する複数のリスクを抱えています。

1.退職・休職によって業務が止まる

最も分かりやすいのが、担当者の退職や休職です。十分な引継ぎ期間が確保できればよいのですが、退職理由や体調などによっては短期間で引き継がなければならないこともあります。業務一覧すら存在しなければ、「何を引き継ぐべきか」を把握するところから始めることになります。

さらに、引継ぎを受けた人が手順だけを覚えても、判断理由まで理解できていなければ、例外が発生した瞬間に業務が止まります。経理では毎月まったく同じ取引だけが発生するわけではありません。属人化を解消するには、作業手順だけでなく判断基準まで組織に残す必要があります。

2.月次決算が遅くなる

属人化している会社では、一人の担当者に確認や判断が集中します。他の社員が作業を進めても、最後はその人の確認待ちになるため、ボトルネックが生まれます。担当者が忙しくなるほど月次決算も遅くなり、経営者が数字を見るタイミングも後ろ倒しになります。

経営に必要なのは、正しい数字だけではなく「適切なタイミングで出てくる数字」です。前月の業績が分かるまでに長い時間がかかれば、価格改定、採用、投資、資金調達などの判断も遅れます。経理の属人化は、経営判断のスピードにも影響します。

3.ミスや不正を発見しにくくなる

一人の担当者が入力、確認、支払いまで広く担当していると、チェック機能が働きにくくなります。これは担当者を疑うという話ではありません。人は誰でもミスをします。重要なのは、個人の注意力だけに頼らず、ミスを発見できる仕組みを会社として持つことです。

業務内容が共有されていれば、別の人が確認したり、異常値に気づいたりできます。反対に、担当者以外が業務を理解していなければ、処理が正しいかどうかを検証すること自体が難しくなります。

4.業務改善やシステム化が進まない

属人化が進むと、「今のやり方を変えると困る」という状態になりやすくなります。業務の全体像が見えていないため、どこを変更すると何に影響するのか分からないからです。その結果、古いExcelや紙の運用が残り続け、新しいシステムを導入しても従来の作業を並行して行うことがあります。

本来、システム導入は業務を整理した後に行うべきものです。属人化した業務をそのままシステムへ移しても、複雑な仕組みをデジタル化するだけになりかねません。

5.会社の成長に管理部門が追いつかなくなる

売上や社員数が増えると、経理の取引件数も増えます。請求書が100件から500件になれば、従来と同じ方法では処理しきれなくなる可能性があります。しかし属人化している会社では、「担当者が頑張る」ことで増加分を吸収しようとしがちです。

これは長期的には持続しません。担当者の残業が増え、確認が遅れ、ミスが増える。そして限界を迎えてから増員しても、新しい担当者へ教えられる仕組みがないため、教育にも時間がかかります。会社の成長に合わせて経理業務も仕組み化する必要があります。

「優秀な担当者に任せる」と「属人化」は違う

属人化の話をすると、「うちには優秀な経理担当者がいるから大丈夫」と考える経営者もいます。しかし、優秀な人に任せることと、会社がその人に依存することは別の問題です。 本当に優秀な担当者ほど、定型作業を自分だけが抱えるのではなく、標準化し、他の人でもできる状態を作り、自分はより高度な仕事へ移れる環境が望ましいはずです。資金繰り、予実管理、部門別分析、業務改善など、経理には経営に貢献できる仕事が数多くあります。 「その人しかできない仕事」を増やすのではなく、「その人がいなくても回る仕事」を増やし、その人には人にしかできない判断や改善を担ってもらう。これが組織として健全な状態です。

属人化解消=マニュアル作成、ではありません

属人化対策として最初に考えられるのがマニュアルです。もちろんマニュアルは重要ですが、それだけでは十分ではありません。複雑で非効率な業務をそのまま詳細にマニュアル化すると、「複雑な仕事を誰でも再現できるようにした」だけで、業務自体の問題は残ります。 まず行うべきなのは、業務を整理することです。そもそも必要な作業なのか、重複していないか、別の部署で入力した情報を再入力していないか、承認は必要か、システムで代替できないかを確認します。不要な業務をなくし、業務フローを簡素化した後で標準化し、その結果をマニュアルへ落とし込む。この順番が重要です。

「その人しか分からない会社」から脱却する5つのステップ

では、実際に経理の属人化を解消するには何から始めればよいのでしょうか。ポイントは、いきなり担当者を増やしたりシステムを変更したりするのではなく、現在の業務を可視化することです。

STEP1.業務をすべて棚卸しする

最初に、経理で行っている業務を一覧化します。毎日、毎週、毎月、四半期、年次で何を行っているのか、誰が担当しているのか、いつまでに行うのか、どのシステムやExcelを使用するのかを整理します。

この段階では「正式な業務」だけを見るのではなく、担当者が個人的に行っているチェックや補助資料も含めることが重要です。属人化している業務ほど、会社が把握していない作業の中に隠れています。

STEP2.業務フローと判断ポイントを可視化する

次に、業務がどのような順番で流れているかを確認します。例えば請求業務であれば、売上情報はどこで発生し、誰が確定し、誰が請求書を作成し、入金後に誰が消し込むのかをつなげて見ます。 同時に、「どこで人の判断が必要なのか」を明確にします。判断基準まで可視化できれば、担当者の頭の中にあるノウハウを会社の資産として残せます。

STEP3.不要・重複・例外業務を減らす

棚卸しをすると、「なぜこれをやっているのか分からない」という業務が出てくることがあります。以前は必要だったものの現在は使われていない資料、同じ数字を複数部署で作っている業務、念のため続けている確認作業などです。 属人化を解消する前に、こうした業務を減らします。仕事を簡単にしてから標準化することで、引継ぎや教育もしやすくなります。

STEP4.標準化し、複数人が理解できる状態にする

業務を整理したら、標準的な手順、締めスケジュール、保存場所、判断基準などを統一します。ここでマニュアルやチェックリストを整備します。重要なのは「マニュアルがあること」ではなく、実際に別の人がその資料を使って業務を遂行できることです。 一度、担当者以外の人に作業してもらうと、説明不足や暗黙のルールが見つかります。実際に運用しながら修正することで、マニュアルは初めて実用的なものになります。

STEP5.システム・外注・役割分担を見直す

最後に、整理・標準化した業務について、自社で行うべきもの、システムで自動化できるもの、外部へ任せられるものを分けます。単純入力や定型処理を減らし、社員が確認・分析・判断など価値の高い仕事へ時間を使える体制を目指します。 ここまで行って初めて、属人化解消が「担当者を増やすこと」ではなく、「会社として業務を運営できる仕組みを作ること」だと分かります。

経営者が属人化を放置しないために確認したいこと

経営者が経理の細かな仕訳方法まで理解する必要はありません。ただし、「誰が何を担当しているのか」「その人が明日から1か月不在でも業務は回るか」「月次決算はどのような工程で完成するか」といった全体像は把握しておくべきです。

一つの確認方法として、主要な経理業務について「担当者以外に説明できる人がいるか」を確認してみてください。答えがほとんど「いない」であれば、属人化が進んでいる可能性があります。また、共有フォルダではなく個人PCに重要資料が保存されている、パスワードを一人しか知らない、作業予定が担当者の手帳だけに書かれている、といった状態も見直しが必要です。

属人化は、担当者を責めることで解決する問題ではありません。長年その人に任せ続けた結果として生まれていることも多いため、経営者・管理者が「個人依存から組織運営へ変える」という方針を示すことが重要です。

BPRで目指すのは「担当者が変わっても回る管理部門」

BPRの目的は、単に業務時間を短縮することではありません。会社の業務を目的から見直し、役割、情報、ルール、システムを再設計することです。経理の属人化解消も、その一部として考えると分かりやすくなります。

担当者が変わっても一定品質で処理できる。必要な数字が決められた時期に出る。例外が発生しても判断基準が共有されている。そして、経理担当者が単純処理だけではなく、経営に役立つ仕事へ時間を使える。こうした状態を作ることが、管理部門再構築の一つのゴールです。

会社が成長するほど、個人の頑張りだけで管理部門を維持することは難しくなります。売上や社員数が増える前に仕組みを整えておけば、成長したときにも管理部門がボトルネックになりにくくなります。

まとめ:属人化をなくすことは、担当者を守り、会社を強くすること

経理の属人化は、担当者が優秀だからこそ発生することもあります。しかし、その人しか分からない状態を放置すると、退職・休職による業務停止、月次決算の遅延、チェック機能の低下、システム化の停滞、会社成長への対応不足など、さまざまな問題につながります。

重要なのは、属人化を「担当者個人の問題」にしないことです。業務を棚卸しし、プロセスと判断基準を可視化し、不要な作業を減らし、標準化する。そのうえでシステムや外部リソースを適切に活用することで、「その人しか分からない会社」から「誰が担当しても一定の品質で回る会社」へ変えていくことができます。

株式会社AMMCでは、経理・財務の実務経験を基盤に、業務の棚卸し、属人化の解消、業務フローの再設計、標準化、システム・外注の活用など、経理・管理部門の再構築を支援しています。経理担当者の退職が不安、月次決算が遅い、会社の成長に管理体制が追いついていないと感じている場合は、お気軽にご相談ください。

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